

昨今、空港やホテルをはじめ公共施設などさまざまなところで目にするようになったAED。
そのAEDが、国際宇宙ステーションにも設置されていることはご存知でしょうか。
これまで3度にわたって宇宙滞在を経験した若田光一氏に、宇宙におけるライフセービングと
クルーメディカル・オフィサーとしての取り組みについて伺いました。
- 石見氏
私は、心肺蘇生やAEDの使い方などをより広く知らせていくための取り組みを行っておりまして、その一環で、救命装置の効果をみるということもしています。今回、宇宙ステーションにもAEDが入ったということで、宇宙の救命処置やそのトレーニングについて伺いたいと思います。
なかでも興味があるのは、胸骨圧迫(心臓マッサージ)なのですが、無重力空間でどうやって胸骨圧迫をやるのでしょう?
- 若田氏
基本的にCPRということで我々が行うのは、高さ30センチ程度で上半身が乗るくらいの小さい低いテーブルのようなものに患者をベルトで固定します。私の時は3人で搭乗していましたので、1人が心肺停止状態になったとして、別の2人が手分けをしてそういった作業をして、押すときは1人がテーブルの横に座ってするという方法です。または宇宙は無重力、無重量状態ですので、天井まで逆立ちして、逆に天井の方の構造を足場にしてやるというのも簡単にできます。私のように背が低いと、この方法はできないのですが、この辺は人によって好き好きです。とにかく無重量でふわふわ浮いた状態なので、横に座る人もベルトのようなもので固定できるようになっています。スペースシャトルの中でもやはり同じような形で周りの壁などを使って、その反動力でCPRを行います。
- 石見氏
今のところは実際にそういうことは無いんですよね。
- 若田氏
そうですね。生死にかかわることですので、当然地上訓練でも何度もやっていますし、軌道上でも私の4ヶ月半の滞在の間で、実際にそういう状況を想定した訓練を1度やりました。
- 石見氏
宇宙での訓練時は、実際のトレーニング用の人形は無いですよね。
- 若田氏
はい。実際に人間を...。
- 石見氏
実際にその強さで押すわけではないけれども、押すまねだけするということですね。
- 若田氏
はい、そうです。地上での訓練は当然人形でやっていますので、実際の力をこめて訓練しますが。
- 石見氏
宇宙へ行く前も、無重力空間で訓練はするんですか?
- 若田氏
それはないです。このジョンソン宇宙センターの中に宇宙ステーションの模型があって、その中のデスティニーというアメリカの実験棟に専用のテーブルが置いてあるんです。そこでそういった救急処置、応急処置の訓練をします。
- 石見氏
宇宙へ行かれる人はみなさん、そのトレーニングをするんですよね。
- 若田氏
はい。国際宇宙ステーションの場合は、誰がそういう病にかかるかわかりませんので、これは全員に対して要求がある訓練です。数カ月、半年に1回程度と結構な頻度で訓練を行って、しかも宇宙に行った後もまた訓練するんです。
- 石見氏
宇宙に行った後の訓練もちゃんとスケジュールに入っているんですか?
- 若田氏
入っています。
- 石見氏
拝見したところ、結構お忙しいスケジュールですね。
- 若田氏
そうですね。宇宙へは、微小重力関係を使った環境を、科学や工学、医学の分野から、さらに芸術や教育といったものに利用していくためのさまざまな実験をしに行っているわけです。
その中でやはり安全というのは一番重要なところで、やはり高いコストをかけて人間を宇宙に打ち上げていますから、クルーに何かあった場合でも、できる限りのことは宇宙で対応して、宇宙でとっさに対応できなければ、やはり命を落とすこともあるわけです。実はMD(Medical Doctor)が乗っていないクルーっていうのも結構あって、そっちの方が実は多いんです。そうなると、エンジニアの私のような医学の専門でない者も、ある程度のところまでは鍛えておかなくてはいけないということで、医学的な訓練は結構入っています。
- 石見氏
今回私も初めて知ったのですが、2年前にAEDが宇宙ステーションに積まれたんですね。それ以前にも、マニュアルの、手動式の除細動器はあったそうですね。
- 若田氏
はい。
- 石見氏
それがAEDに切り替わったっていうのは、MDではない人もいるし、みんなが使えるようにというのが一番の理由なんですか?
- 若田氏
そうですね。AEDは宇宙に限らず、地上でもいろんな所に普及してきていますよね。ビルの中とか、飛行機の中など、いたるところにあります。そういう時代の流れだと思いますけれども、やはり訓練などの効率性や効果を考えるとAEDが必要だということで、宇宙ステーションのアメリカ側に一つあります。
- 石見氏
ちなみに宇宙に行くAEDは何か特別なものなんですか?
- 若田氏
見かけは多少違います。ボタンなどは同じですけども、バッテリー部分の表面にアルミホイルのような銀のテープが巻いてあるんですね。多少そのような安全を考慮した覆いがあったりしますが、それ以外は市販品に近いものが上がっていると思います。
- 石見氏
それはどういう状況で置かれているんですか?
- 若田氏
宇宙ステーションの中は、日本のきぼう実験棟も、アメリカのデスティニー実験棟でも、ヨーロッパのコロンバス実験棟でも、さまざまな環境制御、電装系、電力発生系、通信系といった、いわゆるシステムの装置が搭載されているものと、実験装置が搭載されているもの、入れるものが、実は標準規格で、ラックと呼ばれる単位でなっているんです。そういうラックに実験装置というようなものがあって、このラック自体がドアをつければロッカーになって開け閉めをして物を格納できるような倉庫にもなるんです。日本の実験室にもいろいろなロッカーや実験装置、システムの装置があります。AEDが置いてあるのは、アメリカの実験棟の右舷のちょうど真ん中辺りで、そこは貯蔵ロッカーなんですね。そのドアを一つ開けると、中にAEDが入っていて、フワフワ浮いています。ベルクロテープが裏に付いていて固定できるようになっているんですけれども、開けるときは大体浮いている感じがしました。
- 石見氏
若田さんがAEDの定期的な管理係を?
- 若田氏
ええ、みんなやりますけれども、私も。基本的にはバッテリーのチェックと表示の機能が正しく表示するかというようなチェックだけで、1カ月に1回くらいの頻度でやっていたと思います。非常にシンプルなチェックですけれども、いざというときに使えるように準備はしています。
- 石見氏
マニュアル除細動器の時に比べたら、その辺がすごく管理がしやすくなっているのでしょうね。
- 若田氏
そうでしょうね。
- 石見氏
宇宙ステーションの中がどれくらい広いかということも伺いたいんですけれども、すごく大きいですよね。少なくとも外見だと野球場くらいの大きさはありますか?
- 若田氏
そうですね。我々がよくたとえに使わせてもらっているのがサッカー場くらいの大きさ。横幅が110メートルくらい、奥行きが80メートルちょっとで、それは上から見たときの全体的な表面積みたいなものですね。その中で面積上大きく幅をとっているのは太陽電池パネルで、人間が居住できるところはだいたいジャンボジェットの1.5倍から2倍くらいの内容積なんです。ジャンボジェット自体が大きいのですが、国際宇宙ステーションっていうのは、バスが6台も7台も連なっているような感じで居住区が存在していますので、その居住区の容積、内容積を全部足すと、かなり広いです。

- 石見氏
それは縦に長いんですね?
- 若田氏
はい。ロシアの居住棟、貨物室、それからアメリカのノード、実験棟、ノードとあって、前の方に日本のきぼうとヨーロッパの実験棟があります。だから縦長で一番前のところだけ日本とヨーロッパの実験施設が横に出っ張っているというような感じです。
- 石見氏
いま宇宙ステーションの中にAEDは1台だけですよね。私たちが地上でAEDを設置するときは、目標としてどこで倒れても5分以内で電気ショックができるように準備をします。例えば私が管理している京都大学の中だったら、40台無いとダメだという話をするのですが、宇宙ステーションの中は、例えば100メートルでも地上で走って動くよりは遅いですよね。
- 若田氏
遅いですね。1回目と2回目のときはスペースシャトルの中の、狭い空間でちょっと動けばすぐ壁に当たるというような感じでした。今回は3回目で、ジャンボジェットの1.5倍の広いところでしたので、最初は間違えてスイッチを蹴飛ばさないようにゆっくりゆっくり動いていましたが、1ヶ月くらい経つと全速力で動けるようになりました。
- 石見氏
慣れで動きは違うんですか?
- 若田氏
ええ。ですから本人に意識がある状態であれば、かなり早く動けます。とはいえ、アメリカ人の宇宙飛行士と宇宙ステーションの一番後ろから一番前まで何秒で行けるか、休みの日に競争をしましたけれど、やっぱり全速力でも20数秒はかかります。意識を失った仲間が、例えばアメリカの実験棟であれば、台もAEDもCPRする方法もすぐにあるのですが、ロシアの居住棟の一番後ろの方とかロシアのドッキングコンパートメント辺りでそのような事態になったときに、その人を連れてくる時間っていうのはもっとかかるはずですよね。
- 石見氏
固定の台があるということは、基本的には倒れた人がいたらそこにAEDを持って駆けつけるのではなくて、倒れた人をそこへ連れてくるんですか?
- 若田氏
はい。基本的にはそこに連れてきます。それ以外に安定したところが無くて、AEDのほうを持っていって使うことが望ましいと判断できるときは当然そこでやりますけれども、基本的にはUSラボラトリーの方まで連れてきます。
- 石見氏
そこが一番地上の状況と違うんですね。
- 若田氏
ええ。そうです。まあそれはその時々の判断ですけれども。患者のほうを動かすことによる二次的な怪我などの可能性が、地上より宇宙の方が少ないのだと思います。
- 石見氏
あとはやっぱり運びやすいでしょうね。重くないですものね。
- 若田氏
そうですね。動かすのは楽ですね。
あとは我々も船外活動するときは、「空気漏れ」は結構致命的です。小さい宇宙の塵が貫通をして穴が開いてしまうことがあるんです。例えば手袋や宇宙服も一番厚いところですと14層くらいで、そのような空気漏れが無いようにしていますけれども、万が一空気が漏れたとしても、数ミリ程度の穴でしたら、中に酸素がかなり高圧で溜めてありますので、その酸素を供給することによって、30分程度であれば漏れながらも宇宙船のエアロックの中に戻って来られるような運用を行っているんです。だから宇宙ステーションの一番端の太陽電池パネルのところでそういった事故があったとして、その人が気を失っても30分以内に生きている仲間が、引っぱったり押したりしてその人をエアロックのところまで来るという訓練はしています。もしそういう状態でCPRが必要になった場合には、処置はその後ですので、少し遅くなってしまいますよね。船外活動の時は、相対的にもリスクが高まりますから。
- 石見氏
大体そのようなものを着ていたら、脱がせるのも大変ですよね。船内にいるときは、Tシャツなどの格好でいるものなのですか?
- 若田氏
そうですね。基本的にはポロシャツ、Tシャツです。スペースシャトルの場合はポロシャツを毎日新しいのに取り替えられるんですね。14日間のフライトだったら、14枚持っていっているので。
- 石見氏
14枚も持っていけるのですか?スペースがあまりないと聞きましたが?
- 若田氏
シャトルの場合は1981年にシャトル打ち上げて以来、そうしているんです。シャトルは今年で終わりなので、あと4回しか残っていませんけれど。宇宙ステーションは、それと全く違って、やはりポロシャツなどは2週間に1回とか、パンツはね3日に1回とかそういう感じです。服は限られた形しか着られませんので、着ているものは大体同じです。
- 石見氏
宇宙ステーションは、十数カ国がドッキングしていますよね。法律はどこの国に属するんですか?例えば国によって許可されている医療は異なりますよね。日本でいうと医師法で、他の人はやってはいけないとか、そのようなルールはどうなるんですか?
- 若田氏
医療行為を規定する法律は、無いはずですね。国際宇宙ステーションは国際協定で運用されています。国際協定は国内法をオーバーライドしてますので。 ただ各国の合意の元に作られた法規というか宇宙飛行士の行動規範というようなものは当然あります医療行為を規定する法律は、無いはずですね。
- 石見氏
ということは国際的なルールでは、いわゆるMDではない人でも例えば薬を打つこともできるんですか?
- 若田氏
はい、できますね。それは私たちもどんどん訓練しています。気管挿管も全部訓練します。ヒューストンのハーマン・ホスピタルというところで、フィールド・メディカルトレーニングといって、医学生の実地研修のように、訓練の中で専門のMDについて実際に手術の時に医療行為をしているんです。当然スーパーバイズする人がいる中でではありますが、切り傷を縫ったり、エマージェンシールームでの実際の作業にOJT(On the Job Training)で参加したりしています。そこでの経験は重要だと思いました。
- 石見氏
実際の経験はみなさん無いわけですよね。シミュレーションだけでトレーニングをして、実際にできるようになっていくと。
- 若田氏
はい。例えば腎結石になったとしても、例えば尿カテーテルを使うケースが今まで宇宙でもあって、そのための訓練というのはシミュレーターのゴム人形でしていましたけれども、OJT(On the Job Training)で実地に学ぶということは、やはり役に立ったと思います。NASAの場合は、実地訓練をかなり重要視しているんです。こんなことまで技術者の私が訓練でやるというのは、思ってもみなかったことでした。
- 石見氏
私たちが心肺蘇生の普及活動を始めた最初のきっかけは、ほんの10年くらい前に医療者が心肺蘇生を十分にできないという現実があったんです。宇宙でのトレーニングはその先を行っていますね。その活動の中で、私たちは心停止が突然起こったときは救命の連鎖という4つの鎖が大事ですよと言っているんです。
- 若田氏
4つの鎖とはどういうものですか?
- 石見氏
4つの鎖というのは、突然人が倒れたら、とにかく早く声をかけて、119番通報、そしてAEDを場所に持ってきてもらうように助けを呼びます。AEDが到着するまでCPRを行って、AEDが来たら電気ショックをし、救急隊の到着後、病院搬送という一連の流れなんです。
ちなみにサポートを求めるために、地上の基地に連絡を取ったりすることはあるんですか?
- 若田氏
ええ。僕が飛んだときは、アメリカのマイク・バラッドがMDで、彼がいてくれたので安心でしたが、地上からリアルタイムで支援をしてもらうために、フライトサージャントがヒューストンにいますし、日本のウエイトサージャントもウエイトコールでいます。医学的な情報も一応個人情報ですので、そういう状況になった場合、通信ループは、プライベタイズしてシャットアウトして、フライトサージャント、フライトディレクターと、あとはキャプコムという宇宙飛行士とが通信してリアルタイムで指示を受けます。
- 石見氏
ということは、メディカルコントロールっていうのも受けながらできると。
- 若田氏
そうですね。
- 石見氏
なるほど。私たちの輪では心臓マッサージ、いわゆるCPRをしてAEDで電気ショックをして、その後が二次救命処置として、いわゆる専門家がやる処置になるんですけれども、その専門家的なところも薬を含めて大体されるんですね。そうして心拍が戻ったら、その後はどうするんですか?

- 若田氏
CPRしてAEDのところまでは、一刻を争いますよね。そこまでは確立された手順書があります。我々は何回も訓練をやっていますが、その後は、フライトサージャントの支援を受けて適切な処置を分析してもらい、その指示を仰ぐという形になるわけですからその3つめの鎖のところまでは、もう地上の指示無しでもできるように訓練をしているんです。
- 石見氏
やっぱり地上と同様、3つ目の鎖で一次救命措置(BLS)によってできるところまではAEDを使って完璧にやって、そこから先はケースバイケースで決めるっていう方法ですか?
- 若田氏
はい。そういう形になります。
- 石見氏
地上だと通常は一度心停止になった場合は入院をして心臓カテーテル検査などを更にしないといけませんよね。そこで宇宙から臨時のスペースシャトル出したりして地上に戻るというようなことはあるんですか?
- 若田氏
幸い今までそういった状況は無かったのですが、恐らくは心停止した場合、蘇生した段階で応急処置をして、3人全員を還さなければいけないんです。緊急避難船というのは3人乗りのソユーズ宇宙船で、私が最初に行った際、2ヵ月半くらいは3人だったので、1台しかその緊急避難船はありませんでした。ですから、1人だけを還すことはできないんです。3人一緒に還るんですね。そのような状況では実験は全くできないので、人命優先で宇宙ステーションは一旦無人化して還るという措置をしなければなりません。今はもう野口さんも行って基本的には6人体制でソユーズも2台ありますので、そのような状態になっても無人化はせず、万が一1人が重症になった場合は、仲間の2人、合計3人を乗せて帰還させて運用します。有人宇宙開発っていうのはやはり安全第一、人命第一で動いていますから、事前の医学検査はかなり厳しくやっているものの、緊急帰還をさせるっていう可能性は充分にあると思います。地球低軌道の場合は、ソユーズ宇宙船の場合ですと、アンドッキングしてから最短だったらもう2時間くらいで地球に降りられてしまうんです。
- 石見氏
実際そういうことは無い方が良いのでしょうけれど、そういうときの判断はとても大変だろうと思います。例えば飛行機で急病人が出たときに「お医者さんはいませんか?」と私たちが呼ばれる場合がありますよね。飛行機や新幹線で私も何度かあるのですが、かなり状態が悪い時に「新幹線、途中で停めるべきですか?」と車掌さんに聞かれたら、新幹線でもドキドキしますから。
- 若田氏
そうですね。有人宇宙開発はやはり安全第一、人命第一で動いていますから、緊急帰還をさせる可能性は充分にあると思います。ですからやはり心臓病の無い人でなくてはいけないので、事前の医学検査はかなり厳しくやっています。あとは太陽フレアで放射線をかなり短い間で受けてしまうような場合には、緊急帰還の可能性が充分に高いわけですけれども、その太陽フレアに関してはあまり時間が無いんです。太陽フレアが出たということがわかって、その数十分後には地球まで届いてしまいますので、浴びてしまった以上、もう帰還してもしょうがないんですね。医療の観点からは、放射線被曝のために緊急帰還する意味はそんなにないのかも知れません。それから可能性として我々が一番恐れているのは、やっぱり盲腸ですね。
- 石見氏
盲腸は全員先に取っておけというようなことは無いんですか?
- 若田氏
ええ。それはないのですが、医療的な緊急帰還の理由として、盲腸は可能性としてはあるんじゃないかなと思うんです。
- 石見氏
盲腸とか虫歯とかっていうのはありそうですよね。
- 若田氏
そうですね。虫歯は実は今まで問題になったことは無いですね。私も含め、虫歯はみんなもありましたが、治していますね。圧力差、圧力が高くなったり低くなったりしたような時に虫歯があるとかなりの歯痛になりますけれどそれ以外は問題無いんです。盲腸による緊急帰還の可能性はあるような気がしますね。そういうことが無いことを祈りますけれども。地球低軌道の場合は、ソユーズ宇宙船の場合ですと、アンドッキングしてから最短だったらもう2時間くらいで地球に降りられてしまうんです。
- 石見氏
2時間で降りられるんですか?
- 若田氏
そうです。シャトルの場合は、宇宙ステーションから離れて、緊急で降りたとしてもやはり6時間くらいかかってしまいます。ソユーズの場合は、もっと早く降りることができるんです。
- 石見氏
2時間で降りられるというのは意外と近いんですね?
- 若田氏
ええ。例えば宇宙船が減圧をしてしまっていて、圧力が維持できずソユーズ宇宙船自体も減圧しているようなときには、予定している着陸場であるカザフスタンに限らず、海でも山でも、ところ構わずとにかく地上に降りなければいけないです。一方で、予定どおりの着陸場に降りなければいけない場合は、1日くらい待ってしまうと思います。また着陸した後、その患者搬送する飛行機がどこに来るかということも全部含めて、一番いいと思われるところに降りるなど、そういった検討が必要で、パターンはかなり複雑です。
- 石見氏
今回私が若田さんに会いたいと思っていた一番の理由なのですが、私たちのこれまでの活動を通じて、一般社会に心肺蘇生や救命処置をより広げていくためにAEDの普及はすごく意味があると思っているんです。最近になってようやく多くの人が心肺蘇生に興味を持ったり、勉強しなければいけないと思い始めているかな、という印象があるんですね。そのAEDがついに宇宙にも携行される時代になり、そういったタイミングも活かして、宇宙ではどのようにAEDが使われているのか、など今回のお話をきっかけに、あらためてAEDの一般化や普及の啓蒙につながれば、と思った次第です。
最近では心肺蘇生CPRの中で、心臓マッサージ、胸骨圧迫の方がずっと大事だということが分かってきて、人工呼吸は抵抗もあるうえに難しくてできない人もいるので、まずは胸骨圧迫だけでも広げたいと考えているんですね。そこで私たちは、独自で手軽に子供から大人まで楽しんでできるCPRシミュレーション・トレーニングキット等の作成に取り組んできました。低価格で気軽にできるのがポイントです。
- 若田氏
良いですね。胸骨圧迫も加減はやってみないとわかりませんよね。
- 石見氏
そうですね。私たちはデータも取っているのですが、人が倒れたときに側の人が心肺蘇生をしてくれる確率が、世界中どこでもだいたい3割から4割くらいなんですよね。残りの3分の2くらいは救急車が来るまでは誰も何もしてくれない。こういう状況を改善していくために、特にこれを学校で広げたいと思っているんです。今までの人形だとやはり大きくてお金もかかるので、学校においては予算が少ないためになかなか広まらないんですね。この訓練キットですと、1人1個買ってクラスみんなで一斉に45分くらいでやってみるということを、進めているんです。
- 若田氏
素晴らしいアイデアですね。
- 石見氏
そうですね。とても良いことだと私は信じでいるのですが、実際は社会はそんなに変わらないですよね。学校もなかなかすぐには受け入れてくれないんです。授業時間やお金が無いとかいうような理由で。だから私たちもいろいろなメッセージを出していかなければいけません。ようやく大阪では全ての高校で授業に入れていこうという方向になったんですけれど。学校にこういうアイデアが採用されると地域社会が変わっていくと思うんですよね。子供たちがやらなきゃいけないと思えば、大人たちも変わっていくし。
- 若田氏
そうですね。我々が、このような訓練をしているのも仲間の命を助けるというのが目的ですし。宇宙に行くと、そもそも宇宙に行くこと自体にかなり危険が伴っていますし、宇宙に行ったときに美しい青い地球を見ながら、生きてて良かったなどと、命の大切さを再認識します。やはりその中で、救える命は救いたいという気持ちはありますよね。そういう気持ちを学校の関係者をはじめ子供たちが、みんな持ってくれたら良いと思いますね。そのためにも、具体的なアクションとしてこのような取り組みは非常に重要だと思います。これはとっつきやすい訓練器具アイデアですよね。
- 石見氏
実際に感覚を体験しておかないと、いくらビデオを見たりしてもわからないですよね。とにかく一度体験する必要があるということです。命の大切さというお話でしたが、やはり実際に学校などに行ってみて、今、時代が荒んでいるというか、命のことを考える機会がないんですよね。心臓マッサージのシミュレーションでも実際に押してみるとか、AEDを体験してみるということで、命のことを考えるチャンスになると思うんです。
- 若田氏
おっしゃる通りですね。宇宙飛行士の将来の地上訓練はこれを使って(笑)。僕もフィールド・メディカル訓練というのがありますけれども、小さい頃ああいう経験をして、ERやお医者さんが本当に一刻を争って命を救っているかを見たら、僕は多分飛行機の技術者じゃなくて、医学を目指したんじゃないかなあ、と思うくらい、すごく大切じゃないかなという気がしましたね。私自身はそういう経験が全くなかったので、ああいう場面を見ると、非常に命の大切さを感じますし、自分が宇宙に行ったときもやはり命の大切さを感じましたが、医療の現場っていうのはすごいところですよね、本当に。
- 石見氏
そうですね。医療の現場は、そういうところをもっと見せなければいけないと思うんですね。最近私もそういうふうに感じているんですけれども、日本では救急医療が崩壊しているということが言われています。救急医が全然いなくて、たらい回しにされて救急の患者さんを受けてくれる病院がなかなか無いという状況なんです。救急医療って一番医療と社会との接点があるべきところなのですが、そこが不十分だと思うんですよね。
- 若田氏
その通りですね。
- 石見氏
そういう意味でも、このAEDはとてもいいきっかけだと思います。身近に感じてもらいやすいので、その辺も私たちはもっと意識していかなければいけないですね。今日は本当に興味深いお話を伺うことができました。どうもありがとうございました。
埼玉県大宮市(現さいたま市北区)出身。
1989年3月 九州大学大学院を修了、日本航空に入社する。1992年4月 旧・NASDAによりMS(ミッションスペシャリスト)候補に選出された。
1996年1月 スペースシャトル・エンデバー号による「STS-72」ミッションに日本人初のMS(ミッションスペシャリスト)として参加。宇宙空間に浮遊するSFU(宇宙実験・観測フリーフライヤー)の回収を行うためには、スペースシャトルに搭載されているロボットアームの繊細な操作が必要であったが、若田氏はこの技術を修得し、このミッションでSFU(宇宙実験・観測フリーフライヤー)回収に成功した。2000年10月 スペースシャトル・ディスカバリー号により2度目の宇宙へ。
国際宇宙ステーション(ISS)組立ミッション「STS-92」にMS(ミッションスペシャリスト)として参加。
2004年に九州大学大学院工学研究科で博士号(工学)を取得する。
2006年7月 米国フロリダ州沖にある米国海洋大気圏局(NOAA)の海底研究施設「アクエリアス」における7日間に渡る第10回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO)のコマンダーを担当。
2007年2月 ISS第18次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命。
2009年7月 ソユーズTMA-14での軌道上飛行を実施。
「きぼう」日本実験棟の最後の組立ミッションである2J/A(STS-127)ミッションで「きぼう」船外実験プラットフォームを取り付け、「きぼう」を完成。約4ヶ月半の宇宙滞在を完了し、帰還。
1996年、2000年、2009年の3回の宇宙飛行での宇宙総滞在時間は159日10時間46分5秒。

1996年 群馬大学医学部卒業 2003年 大阪大学医学部 医学系研究科生態統合医学(救急医学)同博士課程修了。
京都大学大学院医学研究科Master of Clinical Research コース修了。
京都大学保健管理センター(予防医療学)助教。NPO法人大阪ライフサポート協会の設立に携わる。副理事長として法人のマネジメント、プロジェクト立案に携わる。平成20年8月より、同協会PUSHプロジェクト(胸骨圧迫+AED
からなる簡易講習会普及を目指す)運営員会委員長。
大阪府心肺蘇生効果検証委員会委員。大阪府全域を対象に、病院外心停止症例の蘇生に関する記録を国際的に標準化したフォーマットであるウツタイン様式に基づいて記録・集計するプロジェクト「ウツタイン大阪プロジェクト」に参加し、心停止した方の社会復帰率などのデータ収集活動を行っている。
心肺蘇生法に関する国際コンセンサス策定を行うILCOR work sheetのタスクフォース。他、日本救急医学会ICLSコース企画運営委員会委員、大阪府医師会ACLS大阪ワーキンググループ委員、日本循環器学会AED検討委員会委
員、日本臨床救急医学会学校BLS教育導入検討委員会委員。日本麻酔科学会救急・心肺蘇生法検討委員会委員。日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会副委員長として、心肺蘇生法の普及・啓発活動に従事。

一般市民による使用が認められたことをきっかけに、着実にその設置台数を増やしつつあるAED。しかし実際の救命に役立てるためには、AEDを用いた救命処置を行うことができる人を増やしていく必要がある。石見氏が副理事長を務めるNPO大阪ライフサポート協会では、胸骨圧迫(心臓マッサージ)とAEDからなる簡易型の救急蘇生法の普及を通じて、『突然倒れた方を救命できる地域を作る』、『いのちを大切にするこころを育てる』ことを目標に、PUSHプロジェクトを展開している。
(http://osakalifesupport.jp/push/index.html)


中でも、同プロジェクトが強調するのは、3つ目のPUSH。広がりつつあるAEDを生かして救命するためにもっとも重要なことは、現場に居合わせた人が勇気を持って救助活動に参加すること。みんなが勇気を持って、声をかけることで、救える命がたくさんあるということを伝えている。

PUSHプロジェクトでは、心肺蘇生法とAEDの講習会を学校の授業に取り入れることで、命の大切さを考えるきっかけを作ることを目指している。写真は、同協会が簡易型の救急蘇生法をより多くの人に体験してもらうために開発したCPR training box(通称あっぱくん)を用いて中学校で行われた講習会の風景。一人に一つのトレーニングキットを用いることで、45分間の授業時間内に体験型の講習会を行うことができる。

AEDを用いた救急蘇生法をできるだけシンプルにすることで、より多くの人にAEDの使い方を学び、実践してもらうことが救命率を高めるカギになる。日本循環器学会でも、このシンプルな救急蘇生法を推奨している。
※子供のおぼれなど、心臓以外の原因で心停止となった場合は、人工呼吸も行う心肺蘇生法がより有効です。
| 監修: | 京都大学保健管理センター 助教 石見 拓先生 |
|---|---|
| 発行: | 日本メドトロニック株式会社フィジオコントロール事業部 〒105-0021東京都港区東新橋2丁目14番1号コモディオ汐留5F TEL:0120-715-545 FAX:03-6430-7140 |
































































